アニメ「啄木鳥探偵處」
伊井圭原作の「啄木鳥探偵處(きつつきたんていどころ)」がアニメとして2020年4月からテレビ放映されています。
「啄木鳥探偵處」は、明治末の金欠歌人である石川啄木が、ある殺人事件をきっかけに始めた探偵所の名前です。助手は同郷の後輩である金田一京助です。
文士仲間の吉井勇、野村胡堂、萩原朔太郎、若山牧水を巻き込んで事件を推理する活躍をします。
吉井勇は悪友にしてライバルの歌人仲間という設定です。
吉井勇とは
吉井勇は1915(大正4)年に発表された「ゴンドラの唄」を作詞した人物として有名です。
「いのち短し 恋せよ乙女 あかき唇 褪(あ)せぬ間に・・・」
黒沢明監督の映画「生きる」のなかで市役所の課長に扮する志村喬がこの歌を歌っていました。
吉井勇と高知県との縁は1934(昭和9)年から1937(昭和12)年までと短い間です。
しかし、この間の日々は、人生における重要な転機となる時期として大きな意味を持っています。
特に山深い香北町の猪野々に草庵の渓鬼荘(けいきそう)を結び、地元の人々と酒を酌み交わしての温かい交流がありました。
明日への希望と心の安らぎを得た貴重な時間を過ごした場所です。
この後、京都に転居して短歌をはじめとする創作活動に活躍します。
吉井と祇園の関係も深く、昭和30年「かにかくに歌碑」が吉井、谷崎潤一郎らによって建立されています。
歌碑には、吉井の作で
「かにかくに 祇園はこいし寝(ぬ)るときも 枕のしたを水のながるる」
と刻まれました。
毎年、11月8日には「かにかくに祭」が祇園の組合によって行われているそうです。
また、宮中新年歌会始の選者を没年まで続け、日本芸術院会員ともなっています。
高知県香美市立吉井勇記念館
国道から分かれて人家もまばらな細い道を進むと、川を渡ったところに小さな集落があります。
人里離れた山の中にひっそりとたたずんでいる集落の中に、その記念館がありました。
吉井勇の生涯や猪野々で隠棲しているころの作品や愛用品が展示されています。
アニメとコラボをした作品も展示されていました。
記念館の隣には、吉井勇が滞在した渓鬼荘が移築されており、当時の生活の様子が再現されています。
歌碑
記念館の一角に吉井勇の歌碑が建てられています。
「寂しければ 御在所山の山櫻 咲く日もいとど 待たれぬるかな」
おわりに
伯爵の子供として何不自由なく育った吉井勇が、高知県の山深い静かな郷で自分を見つめる日々を送っています。
数々の短歌をはじめとした文芸作品を生み出し、文芸界にて名を遺した人にも、人知れない苦悩があったようですが、その苦悩を癒した猪野々の暮らしは心に残るものであったと思います。
吉井勇はアニメの中で現代によみがえっています。
名刺も頂きました。
祇園を愛した本人がこれを知ったとすれば、笑って楽しんだことでしょうね。