農業高校では実習が大切です
どのように食料が生産されているかは、実際にやってみなければ分かりません。
本を読んで知識を得ることも大事なのですが、それだけでは分かったつもりになっているだけです。
うまくいくこともあれば失敗することもあります。しかし世話をすればするほど、いいものが育ちます。
そして苦労の成果としての収穫の喜びです。
本当の意味での教育というものがここにあると思います。
だから農業高校は実習を大切にしています。
夏は暑くて冬は寒いんです。
当たり前なのですが、夏のハウスは50℃越えです。
とてもじゃないけれど長くは作業できません。
夏に出荷する果物の準備も熱中症に注意しながら、暑さとの闘いの中で行われます。
涼しい教室での勉強という訳にはいきません。
家畜の飼育も大変です。
鶏も飼っていましたが、鶏舎が古くて夏になると暑さで産卵が悪くなるし、親鳥が死んでしまうと先生がぼやいていました。
ある時、日曜日に農場をのぞいてみると、豚舎でじっと固まって突っ立っている生徒がいました。
どうしたのかと思って、声をかけると「子豚が死んでいる」というではありませんか。十数年前のことですが、その時はまだ古い豚舎で何十年も前の構造の建物でした。
古い開放的なものだったためか、子豚が段差のあるケージから通路に落ち込んで死んでしまっていたのです。
それを生徒が見つけて、じっとたたずんでいる所でした。
生産現場に起きる出来事の一端を、生徒は垣間見ることになります。
貴重な体験を得ていると思います。
農業は秋~冬~春~夏のサイクルではありません
農業は自然の営みと密接に関係しています。
春になれば種を蒔き、世話をして秋になれば収穫するというサイクルが基本です。
秋には農業高校の生徒たちが一番楽しみにしていて、一番思い出に残る収穫感謝祭があります。
自分たちが世話をして育てたコメや野菜、肉などをみんなで食する行事です。
運動場で小グループの班ごとにバーベキューをしたり、焼きそばとかキムチ鍋とか思い思いに料理を作って、みんなでお昼を過ごします。
火を起こすところから始めているので、煙に巻かれながらワイワイやっています。
風が強かったり雨が降って来たりしてお天気に左右されますが、それはそれで楽しい思い出になっているようです。
冬には冬の土づくり作業をして春に備えています。
これを日本は繰り返してきています。
だから四季は春夏秋冬なのではないでしょうか。
春が最初で冬が最後です。
けっして秋冬春夏などとは言いません。
この季節感と共に、日本の文化も形成されているように思います。
農業高校と9月入学は波長が合わない
農業高校の教育も、農業の営みと共に行われているものです。
最近になって9月入学があちこちから言われるようになりました。
しかし、農業の営みは春からなので9月では農業教育とは波長が合わないのではないかと思います。
生徒たちにとっては植物や動物と触れ合い、共に成長することが何よりも重要なことです。
農業高校には進学する生徒もいますし、就職する生徒もいます。
生徒の進路を保証することは大切なのですが、そもそも普通科とは違い進学が当たり前ではありません。
テレビで9月入学に賛成している方は、大学や留学のことしか言ってないし、お金のことを心配しなくてもいい方ばかりのように見えます。
9月入学ということは卒業も遅くなるので、それだけ社会に出るのが遅れるということです。
家庭の経済的な事情で進学できないとか、早くに社会に出て仕事をしたいという生徒もいます。
卒業が遅くなるということは、例え授業料を国が負担するとしても親の経済的負担はかなり大きくなるということです。
これからの経済情勢がどうなるか分からない状況で、そのような負担増を強いることに問題はないのでしょうか。
田舎よりも都会の方が厳しい状況のようで仕方がないと思いますが、都会の論理をテレビのワイドショーなどは代弁しているばかりに見えて悲しくなってきます。
それに高校には農業だけではなく、いろんな専門学校があります。
どうかそのような高校のことも少しは気にかけて欲しいと願っています。