はじめに
今治市には、郷土出身の人が故郷の人たちのために私財を投じて、寄贈した美術館が2つあります。
今治市河野美術館と今治市玉川近代美術館(徳生記念館)です。
どちらの美術館にも、こんなにも素晴らしい作品がここにあるのか、と驚くほどの作品が多数、収蔵されています。
寄贈された人物の故郷を思う強い心情を窺うことのできる場所です。
写真は禁止でしたので作品の画像はありませんが、素晴らしいものばかりなので、ぜひ美術館を訪問されて観賞してみてください。
今治市河野美術館
今治市出身の河野信一氏がコレクションした作品と施設の建築資金を寄贈されました。
長年にわたり収集した文化財を一般に公開して文化振興に役立てることを目的として1968(昭和43)年に「河野信一記念館」として開館されました。
現在は「今治市河野美術館」と改名されています。
寄贈者は河野信一氏
河野信一氏は帝国判例法規出版社(創立大正9年)代表として活躍しました。
現在は株式会社テイハンと改名していて、法律実務専門図書の出版・販売を行っている会社です。
今治市の文化振興に寄与したということで、今治市名誉市民第1号となっています。
日本の歴史的書画中心の収蔵品
平安から現代にいたる歴史的文化人や武人などの書画・古文書など約1万点を収蔵しており適宜、展示しています。
金葉和歌集(伝藤原為家)、茶湯秘伝書(古田織部)、源氏物語図屏風(伝土佐光信)、松尾芭蕉の画賛、歌川広重木版画など枚挙にいとまがありません。
朝倉義景、毛利元就、伊達政宗、松平定信ほか多数の武将による書状も展示されていました。
歴史的文化的に貴重な文物を、たくさん所蔵し一般公開しています。
移築された茶室
東京の河野氏の邸内にあったものを移築したものです。
京都・山崎にある国宝「妙義庵待庵」をそっくりそのまま写して建てたもので、河野氏は「柿ノ木庵」と名付けられていました。
建物だけでなく、つくばい・腰掛待合も設けられており、本格的なすばらしい茶室です。
今治市玉川近代美術館
今治市(旧玉川町)出身の徳生忠常氏が全資金を提供して建設し、所蔵作品も寄贈して1986(昭和61)年に開館した美術館です。
山あいの静かな農村風景の中に、ひっそりと溶け込んでいます。
寄贈者は徳生忠常氏
徳生氏は農家の長男として生まれましたが、体が丈夫でなかったので、跡は継がずに東京に出て行き、商売の道に進みました。
日中戦争で出征した後、太平洋戦争の時には今治に帰ってきていましたが空襲で全て失ったそうです。
しばらくは厳しい生活を余儀なくされましたが、再び上京して新会社を設立し成功したようです。
徳生氏は故郷への思いが人一倍強く、折に触れて多額の寄付をしていたので玉川町の名誉町民第1号となっています。
近代洋画中心の所蔵品
黒田清輝、藤田嗣二、藤島武二、ゴーギャン、ピカソ、ルオーといった近代洋画の内外のすばらしい作品が展示されています。
通常なら、都会でなければ見ることのできない作品ばかりです。
明るい光が差し込む大きな窓があり、そこからの風景も一枚の絵画のように飽きることなく眺めることができます。
楢原神社で発見された国宝
1934(昭和9)年に今治市楢原山の楢原神社で発見された「伊予国楢原山経塚出土品」が所蔵されています。
高さ71,5cmの銅宝塔で、塔の中には写経が入っていたようです。
資料保存のために、展示制限があるので公開については事前の問い合わせが必要です。
おわりに
故郷を思う人物が、経済的なことだけでなく、芸術を通して人々のこころを豊かにするために数多くの美術品を寄贈していることに驚かされました。
それだけ今治という地が、このような人物を輩出する、すばらしい所なのだと思いました。